前回の「報酬改定」と「ガイドライン」の解説に続き、今回はなぜ今、これほどまでに厳しい見直しが行われることになったのか、その背景にある「安易な参入や投資勧誘への対応」について、最新資料に基づき解説します。
令和8年度における臨時応急的な見直し
1. 急増する総費用額と「ニーズに基づかない参入」
障害福祉サービスの総費用額は、令和5年度から6年度にかけて12.1%という異例の急増を見せました。この背景には、単なる利用者の増加だけでなく、一部のサービスで「地域のニーズ調査をせずに先行して開設し、後から利用者を募る」といった、本来の制度趣旨に沿わない参入が自治体から報告されているという実情があります。
2. 国が警告する「不適切な働きかけ」の具体例
厚生労働省の資料では、新規参入や出資を募る際の「不適切な働きかけ」のイメージが具体的に例示されています。
- グループホーム:
「加盟金無料で気軽に始められる」「〇年で年収〇億のすばらしいビジネス」とうたうもの。
- 就労継続支援B型:
「eスポーツ支援は急成長のビジネスモデル」「本部サポートで未経験でも安心」と強調するもの。
- 児童発達支援・放課後デイ:
「ストック型ビジネスで安定収入」「実態はこどもの預かりがメインで総合的支援は不要」と示唆するもの。
これらの例は、「特段の知識や経験は不要」「簡単に利益をあげることができる」という誤解を与え、サービスの質の低下を招く要因として国が注視しています。
3. 令和8年度からの「指定審査」の厳格化
こうした状況を受け、令和8年度からは、自治体(指定権者)による審査がより実効性のあるものへと強化されます。
- 「法人の代表者等」への直接面談:
コンサルティング会社や代理人ではなく、法人の代表者、管理者、サービス管理責任者に対して面談を行い、障害福祉制度や就労支援事業会計に関する不可欠な知識を有しているかを確認します。
- 生産活動の実態確認:
生産活動と称して「eスポーツ」や「数回の水やり」「居るだけの活動」など、公費による就労支援として適さない活動を行わせていないか、「生産活動シート」等で入念にチェックされます。
- 報酬単価の特例(引き下げ):
事業所が急増している特定のサービス(就労継続支援B型、共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)、児童発達支援、放課後等デイサービス)については、新規事業所に限り基本報酬を一定程度(▲1%〜▲3%程度)引き下げた単価が適用されます。
今後の運営リスクと対策
今回の臨時見直しは、一部で見られる「利益優先の安易な運営」に対する行政側の明確な回答といえます。これからの事業運営において、事業者が留意すべき法的・実務的リスクは以下の通りです。
- 指定申請時のリスク:
代表者自らが制度やアセスメント、会計を説明できない場合、適切なサービス提供が困難と判断され、指定が見送られる可能性があります。
- 運営指導(実地指導)の強化:
ガイドラインの策定により、自治体の担当者は「不適切な事例」を明確な物差しとして持ちます。例えば、特定の習い事のみの提供や実態のない在宅支援は、指導や報酬返還の対象となるリスクが高まります。
- 収支計画への影響:
新規事業所への「応急的な報酬単価の特例」の適用により、従来の報酬単価を前提とした収支シミュレーションは通用しなくなります。
障害福祉サービスは、「利用者に提供されるサービスの質の確保」と「制度の持続可能性」のバランスが厳格に求められる段階に入っています。


