「無縁墓(むえんぼ)」という言葉をご存知でしょうか?
これは、お墓の管理者がいなくなり、誰も供養・管理をしなくなったお墓のことです。近年、この無縁墓が全国で増え続けています。その背景には、少子化や都市部への人口集中、家族の祭祀承継意識の低下など、現代社会特有の構造的な問題があります。
無縁墓は簡単に撤去できるものではなく、法律に基づく複雑な手続き(公告や改葬)が必要です。こうした手間や費用が、自治体や墓地管理者にとって大きな負担となっており、深刻な社会課題となっています。
無縁墓とは?
無縁墓(無縁墳墓)とは、縁故者(親族や管理者)が不明、または連絡が取れず、供養や管理が行われない墓のことです。墓地、埋葬等に関する法律では、一定期間管理者が不在で、公告を経ても縁故者が現れない場合に「無縁墳墓」として扱われ、改葬・撤去の手続きが可能になります。
無縁墓の現状:公営墓地の半数以上で発生
総務省の調査(令和5年報告)によると、公営墓地のうち無縁墳墓が存在する割合は58.2%に達しています。これは、無縁墓が全国的に広く発生していることを明確に示しています。無縁墓の全国的な正確な数は十分には把握されていませんが、総務省・厚労省の調査では、「公営墓地・納骨堂の多くで無縁墓が確認されている」とされており、特に都市部や過疎地域で増加傾向にあります。
無縁墓が増えている主な理由
社会構造の変化により、お墓の管理や供養を引き継ぐ人が減少し、無縁墓が増加しています。主な要因は以下の通りです。
- 少子化・核家族化:お墓を承継する子供の数や親族間のつながりが希薄化
- 都市部への人口集中:地方の先祖代々のお墓から遠方に住み、管理が困難に
- 家族の祭祀承継意識の低下:「必ず長男が墓を守る」といった意識が薄れている
無縁墓として認定し、撤去・改葬するまで
墓地管理者が無縁墓を正式に認定し、撤去(改葬)を可能にするためには、墓地、埋葬等に関する法律施行規則に基づき、厳格な手続きを踏む必要があります。
- 縁故者への連絡の試み
- 官報への公告
- 墓地内の見やすい場所への立札掲示
これらを1年間行う必要があります。この1年間の公告期間中に縁故者が現れない場合にのみ、無縁墳墓として認定され、改葬や撤去が可能になります。
墓地、埋葬等に関する法律施行規則
第三条 死亡者の縁故者がない墳墓又は納骨堂(以下「無縁墳墓等」という。)に埋葬し、又は埋蔵し、若しくは収蔵された死体(妊娠四月以上の死胎を含む。以下同じ。)又は焼骨の改葬の許可に係る前条第一項の申請書には、同条第二項の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる書類のほか、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 無縁墳墓等の写真及び位置図
二 死亡者の本籍及び氏名並びに墓地使用者等、死亡者の縁故者及び無縁墳墓等に関する権利を有する者に対し一年以内に申し出るべき旨を、官報に掲載し、かつ、無縁墳墓等の見やすい場所に設置された立札に一年間掲示して、公告し、その期間中にその申出がなかつた旨を記載した書面
三 前号の官報を出力した書面又は官報の発行に関する法律(令和五年法律第八十五号)第十条の規定により交付された当該官報に係る電磁的官報記録(同法第五条第二項に規定する電磁的官報記録をいう。)を記載した書面の写し(同号の公告を同法第十一条第一項に規定する書面官報への掲載により行つたときは、同条第五項の規定により頒布された当該書面官報の写し)及び立札の写真
四 その他市町村長が特に必要と認める書類
無縁墓の撤去がなかなか進まない理由
総務省の調査(平成28年度〜令和2年度)によると、公営墓地・納骨堂において、無縁墳墓の焼骨の移管・墓石撤去の着手にまで至った市町村の割合は、全体でわずか6.1%にとどまっています。
撤去が進まない主な理由は以下の通りです。
- 公告期間が長く、手続きが複雑:法律で定められた手続きに手間と時間がかかる。
- 改葬費用や撤去費用の負担が大きい:全て管理者が負担する必要があり、財政的負担が大きい。
- 墓地管理者の人手不足:少人数で管理している場合、複雑な手続きに対応しきれない。
- 解体後の縁故者による訴訟リスク:後から親族が現れて訴訟を起こすリスクを恐れる。
無縁墓にさせないための対策:「お墓じまい」の検討
無縁墓化を未然に防ぐための有効な対策として、「お墓じまい」があります。
お墓じまいとは、現在のお墓を撤去・解体し、遺骨を永代供養墓(合祀墓)、納骨堂、樹木葬などの別のお墓や供養施設に移すことです。
管理が困難になる前に、ご家族で早めにお墓じまいを検討することで、無縁墓化を防ぎ、将来的に家族へ管理の負担を残さないことができます。
結びに
無縁墓の増加は、現代の家族や社会の変化を映す深刻な問題です。
無縁墓化を防ぐ有効な手段として、「お墓じまい」が挙げられます。 ご自身やご家族のお墓の将来について、無縁墓になってしまう前に、一度話し合ってみてはいかがでしょうか?



