就労移行支援の報酬は、基本報酬に加え、利用者の支援状況や事業所の運営体制に応じた加算・減算が適用される仕組みとなっています。本記事では、就労移行支援の報酬体系について、詳しく解説します。
基本報酬
就労移行支援には「一般型」と「養成施設型」の2種類があります。基本報酬は、事業所が提供する支援の対価として算定され、利用者の就労定着率や事業所の定員によって異なります。
就労移行支援サービス費(Ⅰ)「一般型」

就労移行支援サービス費(Ⅱ)「養成施設型」

加算
加算は事業所の支援体制や利用者の状況に応じて報酬が増額される仕組みで、就労移行支援の加算には、次のようなものがあります。
福祉専門職員配置等加算
社会福祉士や精神保健福祉士などの福祉専門資格を持つ職員を一定割合以上配置している事業所に適用される加算です。専門的な知識と技術を活かした支援を提供することで、利用者の生活の質の向上を図ることが目的です。
就労支援関係研修修了加算
就労移行支援事業所において、一定の研修を修了した就労支援員を配置することで算定される加算です。この加算は、支援員の専門性を向上させ、障害者の一般就労への移行支援の質を高めることを目的としています。
視覚・聴覚言語障害者支援体制加算
視覚・聴覚・言語障害のある利用者が円滑に生活できるよう、コミュニケーション支援や環境整備を強化した事業所に適用される加算です。点字対応、手話通訳、拡大読書器の導入など、利用者のニーズに応じた支援を提供します。
高次脳機能障害者支援体制加算
高次脳機能障害者支援体制加算は、事故や病気による脳損傷により高次脳機能障害を抱える利用者に対し、専門的なリハビリや生活支援を提供する事業所に適用される加算です。記憶障害や注意障害への対応を強化し、日常生活の安定を支援します。
初期加算
新規利用者の支援強化を目的として設定されており、利用開始から30日間適用されます。1日につき30単位が加算されます。
訪問支援特別加算(月2回を限度)
就労移行支援計画等に基づき、居宅訪問で相談援助を行った際に算定される加算です。
欠席時対応加算(月4回を限度)
急病などで利用者が欠席した際に、事業所が相談援助や連絡調整を行った場合に算定される加算です。月4回まで適用可能で、欠席の事前連絡と対応記録の作成が必要です。
医療連携体制加算
医療機関と連携し、利用者に適切な医療的ケアを提供する場合に算定される加算です。看護師の配置や医療機関との連携体制の確保が求められ、利用者の健康管理や医療的支援の充実を図ります。
精神障害者退院支援施設加算
長期入院していた精神障害者が地域での生活に移行する際に、適切な支援を提供する事業所に対して算定される加算です。就労移行支援の枠組みの中で、この加算を受けるためには、特定の施設基準や支援体制を満たす必要があります。
利用者負担上限額管理加算(月1回を限度)
利用者負担上限額管理加算は、利用者の自己負担額を適切に管理する事業所に適用される加算です。複数の事業所からサービスを受ける利用者に対し、負担額が上限を超えないよう調整・管理することを目的としています。
食事提供体制加算
収入が一定額以下の利用者に、栄養バランスの取れた食事を提供する事業所に適用される加算です。管理栄養士の関与や適切な調理環境の整備が算定要件となります。
移行準備支援体制加算
就労移行支援事業所が利用者の職場実習や求職活動を積極的に支援し、職員が同行することで算定できる加算です。
送迎加算
業所が利用者の居宅や指定場所まで送迎を行った場合に算定される加算です。送迎の頻度や利用者数に応じて、送迎加算(Ⅰ)・(Ⅱ)に区分されます。
障害福祉サービスの体験利用支援加算
利用者が他の障害福祉サービスを体験利用する際に、現在の事業所が相談援助や連絡調整を行った場合に算定される加算です。体験利用の期間に応じて、加算(Ⅰ)・(Ⅱ)に区分されます。
通勤訓練加算
視覚障害者の通勤を支援するための加算で、就労移行支援事業所が専門的な訓練を提供する場合に算定されます。視覚障害者が安全に通勤できるよう、白杖(盲人安全つえ)を使用した歩行訓練や公共交通機関の利用訓練などが対象となります。
在宅時生活支援サービス加算
通所が困難な利用者が在宅で就労支援を受ける際に算定される加算です。市町村が在宅支援の必要性を認めた場合に適用されます。
社会生活支援特別加算
医療観察法対象者や刑務所出所者などの社会復帰を支援する事業所に適用される加算です。適切な支援を行うために、精神保健福祉士などの専門職の配置や訪問支援の実施が求められます。
地域連携会議実施加算
就労移行支援や就労定着支援事業所が、関係機関と連携して利用者の支援計画を作成・見直しする際に算定できる加算です。
緊急時受入加算
障害の特性に起因する緊急事態が発生した際に、事業所が夜間支援を提供した場合に算定される加算です。
集中的支援加算(月4回を限度)
強度行動障害を有する利用者の状態が悪化した際に、事業所が専門的な支援を集中的に提供した場合に算定される加算です。
処遇改善加算
福祉・介護職員の待遇向上を目的とした加算で、賃金改善やキャリアパス制度の整備が要件となります。
減算
減算は、事業所の運営体制や支援の適正性に問題がある場合に適用され、報酬が減額される仕組みです。就労移行支援の減算には、次のようなものがあります。
定員超過利用減算
事業所の定員を超えて利用者を受け入れた場合に適用される減算です。適正なサービス提供体制が維持できない状況では、支援の質が低下するため、報酬が減算されます。利用者の快適な生活環境を確保するため、定員を遵守することが重要です。
サービス提供職員欠如減算
利用者へ適切な支援を提供するための職員配置基準を満たしていない事業所に適用される減算です。例えば、必要な人数の職員を確保できていない場合、支援の質が低下するため、報酬が減算されます。
サービス管理責任者欠如減算
サービス管理責任者が不在、または業務を適切に遂行できていない場合に適用される減算です。サービス管理責任者は、利用者の支援計画の策定や職員の指導を担う重要な役割を果たすため、その不在は支援の質に大きな影響を与えます。
就労移行支援計画等未作成減算
就労移行支援事業所が適切な個別支援計画を作成していない場合に適用される減算です。これは、利用者の支援計画が適切に策定・管理されていない場合に、報酬が減額される仕組みです。
標準利用期間超過減算
就労移行支援や自立訓練などの障害福祉サービスにおいて、定められた標準利用期間を超えて利用した場合に適用される減算です。
身体拘束廃止未実施減算
利用者への身体拘束を適正に管理・廃止する取り組みが行われていない場合に適用される減算です。福祉サービスでは身体拘束を最小限に抑え、利用者の自由を尊重することが求められます。適正な手続きなしに身体拘束を行っている場合、報酬が減算される可能性があります。
虐待防止措置未実施減算
虐待防止のための研修や規程が整備されていない事業所に適用される減算です。職員への定期研修を実施し、虐待防止のルールを明確に定めることで、利用者の安全を確保することが求められます。
業務継続計画未策定減算
災害時の業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)が策定されていない場合に適用される減算です。感染症や自然災害などの緊急時に適切な対応が取れない事業所では、利用者の安全確保が難しくなるため、報酬の減算対象となります。
情報公表未報告減算
事業所の運営情報を適切に公表・報告していない場合に適用される減算です。透明性の確保は、利用者やその家族が安心してサービスを利用できる重要な要素であり、事業所の信頼性にも関わるため、適切な情報公開が求められます。
まとめ
就労移行支援の報酬は、基本報酬に加え、加算・減算によって調整される仕組みになっています。基本報酬は「一般型」と「養成施設型」に分類され、事業所の定員や利用者の就労定着率によって異なります。加算は支援の専門性や環境整備に応じて適用されるもので、福祉専門職員配置や医療連携など多岐にわたります。一方、減算は適切な支援が行われていない場合に適用され、定員超過や標準利用期間超過などが該当します。事業所は報酬の仕組みを理解し、適切な支援体制を構築することが求められます。